かつて、異世界と現代日本が混じり合ったこの時代。神や騎士を自称する者たちが、ごく普通に電車に乗り、スマホを操り、誠に――テーマパークの行列に絶望する。これは、そんな混沌とした世界で、お台場の迷宮『東京ジョイポリス』へと挑んだ三人の記録である。
読者諸君、汝らは知っているか? 屋内型ゆえに天候というデバフを無効化し、常に一定の熱狂を維持し続けるこの地の恐ろしさを。特に「待ち時間」という名の見えない壁は、時に神の逆鱗に触れ、時に少女の胃袋を破壊する。
【パーティー紹介:迷宮攻略チーム】
- リエル:【役割:傲岸不遜な神】
中学生のような愛らしい外見とは裏腹に、楽園を統べる(自称)神。全ての事象を「不敬」か「恩寵」で判断する。今回の「待ち時間」に対し、最も高いヘイトを稼いでいる。
- 八木 桜花:【役割:RTAゲーマーの姉】
現実の全てを「げぇむ」として捉える攻略のプロ。ストップウォッチ片手にコンマ一秒を削ることに命を懸けている。今回の旅のコンダクター。
- 井上 乃々日:【役割:空腹に揺れるガイド】
気弱な女子高生。パーティーの良心であり、現実的な「世界観維持ルール(マナー)」の守護者。しかし、ストレス(空腹)が限界を超えると不穏なオノマトペを吐き出す。
序章:不敬なる行列と、青ざめたガイドの胃袋
お台場の空気を切り裂くような絶叫が、東京ジョイポリスの重厚な入り口に響き渡った。
万死! 万死に値するなり! この地を支配する王は何処か! 神である我を、この薄暗い洞穴の如き入り口で一刻も止め置くとは、正気か!? 跪け! 今すぐ全ての民を退かせ、我に赤絨毯を敷くが良いわ!
リエルが、入場待機列の先頭で顔を真っ赤にして喚き散らす。その威圧感に、周囲のカップルたちは「……痛いコスプレかな?」という生温かい視線を投げていた。
あぅぅぅ……リエルさん、お願いですから静かにしてくださいぃ……! ここは天候に左右されない国内最大級の屋内遊園地。だから雨の日も風の日も、そして休日ともなれば『神様』でも平等に並ぶのがルールなんですぅ……! あぁ、胃が……胃が雑巾のように絞られて、何だか空腹で変な汁が出てきましたぁ……
乃々日が青白い顔で腹部を押さえ、震える声でリエルを制止する。彼女の視線の先には、人気アトラクション『ハーフパイプ トーキョー』の待ち時間表示「120分」という無慈悲な数字が躍っていた。
ふっふっふ。お前たち、今日はこれだ! 『ジョイパス』という名の聖遺物(フリーパス)を手にしていながら、ただ漫然と並ぶのはゲーマーの本分に反するだろ? 確かに『ジョイポリスの待ち時間は嘘だ』なんて噂もある。実際、表示より早く終わることもあれば、その逆もある。この120分という数字は、いわば運営側が用意した最高難易度のパズルなんだよ
桜花が不敵な笑みを浮かべ、スマホのストップウォッチをリセットする。その瞳には、これから始まる「2時間の待機フェーズ」をいかに効率よく処理するかという、狂気に近い情熱が宿っていた。
実際、何分待つかなどという不確定要素に怯えるのは素人だ。真の攻略者は、この『隙間時間』をコンテンツに変える。そうだろ?
リエルは、表示板に書かれた「120分」を睨みつけ、わなわなと指を震わせた。彼女にとって、それは単なる数字ではなく、神の尊厳を削り取る死の宣告に等しかった。
第2章:不浄なる食欲と、鉄の掟(マナー)
……おい、異界の導き手(乃々日)よ。汝、先ほどから何をぶつぶつと呪詛を吐いておるのだ? 我の神威に当てられたか?
リエルが怪訝そうに、隣で小刻みに震える乃々地をのぞき込んだ。乃々日の瞳は焦点が合っておらず、視線の先にはアトラクションの列のすぐ横で、楽しそうにアイスを頬張る子供の姿があった。
……はぐっ、はぐっ……あぁ、あのアイス……つぶつぶが、まるで栄養のエキスの結晶のようですぅ……。リエルさん、いけませんっ、いけませんよぉ……! ジョイポリスは飲食の持ち込みは禁止、指定の場所以外での飲食も『世界観維持ルール(マナー)』違反なんですぅ……! でも、わたしの胃袋が、破壊衝動に屈しそうなんです……!
乃々日が自身の腕を噛み締め、食欲という名の内なる獣と死闘を繰り広げている。その横では、桜花がスマホの画面を高速でフリックしながら、冷徹に「攻略の掟」を読み上げていた。
ふっふっふ。お前たち、今日はこれだ! 待ち時間中の『列離脱』は、基本的にはパーティー全滅――つまり、最後尾からのコンプリートし直しを意味する。代表者だけが並んで、後から合流するなんて姑息なグリッチ(不正)は、この聖域では通用しないだろ? そもそも、ここは再入場が可能。外の空気を吸いたいなら、スタンプを手に刻んでゲートを出るのが、このゲームの正規ルートだ
再入場だと……? 我を一度追放し、再び招き入れるというのか! 不敬なり!
リエルが声を荒らげた瞬間、列を管理するスタッフの鋭い視線が飛んできた。
ひゃあぁっ! す、すみませんですぅ……! リエルさん、ここは通話や大声も、他のお客様への『広域デバフ』になるんです……! 静かに、質素に、存在感を消して栄養分を蓄えるのですぅ……あぁ、お腹が、お腹が空きすぎて、リエルさんの頭が大きなポップコーンに見えてきましたぁ……
乃々日の指が、リエルの柔らかそうな頬へ、ゆっくりと、しかし確実に伸びていく。
第3章:深淵の紋章と、神の攻略提案
……待て、乃々日。我の頬を『摂取』しようとするのは止めよ。万死に値するなり!
リエルが身を翻して回避すると同時に、桜花が二人の間に割って入った。その手には、近未来的な輝きを放つ一つのデバイスが握られている。
ふっふっふ。お前たち、今日はこれだ! この120分という『虚無のロード時間』を、最強のサイドクエストに変える隠しコマンド――館内回遊型アトラクション『ジョイポリ探検隊』だろ! これがあれば、メインアトラクションに並びながら館内の紋章を収集し、古の秘宝へとたどり着ける。まさに一石二鳥のマルチタスクだ!
桜花が手渡した端末を受け取り、リエルは不敵に口角を上げた。
ほう……紋章集めなりか。この地の結界を解析せよというのだな。良いだろう、この我に任せるがよい! 並んで待つという不敬な時間を、我への献上品を集める儀式へと変えてつかわす!
だが、意気揚々と端末を掲げるリエルの背後で、乃々日は力なく項垂れていた。
あぁ……探検はいいですが、歩き回るとさらにカロリーを消費してしまいますぅ……。でも、じっとしているよりは、脳を動かして空腹を忘れる方が『実用的』かもしれませんねぇ……。リエルさん、迷子になって『不浄なエリア』に迷い込まないでくださいねぇ……
神と騎士、そして空腹のガイドによる、待ち時間を削り取るための「裏技」が今、発動した。
第4章:深淵の紋章と、神の迷走(マッピング)
……おかしい。この壁の向こうに反応があるはずなのだが、なぜ行き止まりなりか? まさか、この地の王が我を閉じ込めるべく、時空を歪めたとでもいうのか!?
リエルが、近未来的なネオンが明滅する通路の突き当たりで、端末を天高く掲げて吠えた。ジョイポリスは三層構造の複雑な迷宮だ。吹き抜けから漏れる絶叫と重低音が、神の方向感覚という名の精密機器を狂わせていく。
リエルさん、それはただの『女子トイレの壁』ですぅ……! あぁっ、そんなところで端末を掲げたら、不審者として粛清(通報)されてしまいますぅー!
乃々日が必死にリエルのローブを引っ張るが、リエルは
とさらに深部へと突き進んでいく。その背中を、桜花が呆れたように眺めていた。
ふっふっふ。お前たち、今日はこれだ! 迷宮攻略には『マッピング』が不可欠だろ? 待ち時間を有効活用するはずが、迷子になってアトラクションの呼び出しに遅れたら、それは『ゲームオーバー』だ。だが安心しろ、このわたしがルートを最適化してやる
桜花が高速でスマホを操作し、館内マップと現在の待ち状況を照らし合わせる。その横で、乃々日の腹の虫が、もなり猛獣の咆哮のような音を立てた。
あぅぅ……脳を使いすぎて、栄養のエキスが枯渇しましたぁ……。リエルさん、紋章を見つけたら、何か……何か食べることを許可してつかわさいー!
第5章:審判の刻と、完全なるタイムアタック
……来た。ついにこの時が来たなり。我を二時間も立ち尽くさせた不敬なる門が、今、開かれようとしておる……!
リエルが、もはや神の威厳など霧散したボロボロのローブを翻し、アトラクション『ハーフパイプ トーキョー』の搭乗口を見据えた。
ふっふっふ。お前たち、今日はこれだ! 見ろ、このデジタル時計の刻みを。120分表示だったが、実質的な待機時間は102分45秒。公式のバッファ(余裕)を見事に読み切った『完璧なタイムアタック』だろ?
桜花が、バックライトの光る腕時計を突き出した。リエルはその数字を忌々しげに睨みつけ、震える指で自らの髪を弄る。
……ふん。我の魔力で時空を圧縮し、汝らの歩みを早めてやったまでのこと。決して、公式の待ち時間が『実際には少し短い』などという、この地の法則に救われたわけでは……なかろう。……感謝せよ、我の慈悲なり
リエルの頬が微かに朱に染まる。二時間の「不当な待機」の間、彼女は文句を言いながらも、桜花が差し出した暇潰しに、そして乃々日の支離滅裂なガイドに、知らず知らずのうちに心を預けていたのだ。
さあ、行くぞ! この重力制御の儀式(アトラクション)を制し、我らのベストスコアを世界に刻むのだ! 乃々日、食うのは後だ、今はその破壊衝動をペダルにぶつけろ!
えい、えーい! 壊しますぅ、この空腹の元凶を、足の力で粉砕してやりますぅー!
終章:【まとめ】聖域の再訪と、空腹の残響
アトラクションの出口、近未来的なネオンが明滅する通路で、リエルは壁に手をつき、幽霊のような足取りでふらついていた。
……はぁ、はぁ。馬鹿な。神であるこの我を、これほどまでに振り回すとは……。重力、遠心力、そしてあの喧盛……。この地は、魂を削り取る試練の場なりか……?
あぅぅぅ……リエルさん、そんなに白目を剥いては、神格が……神格が溶けてしまいますぅ……! でも、見てください! わたしの足の力(破壊衝動)、凄かったですぅ! 栄養が足りなくて、もう、一歩も動けませんがぁ……
乃々日は床に座り込み、もはや抜け殻のような笑顔を浮かべていた。桜花が二人の肩を叩き、出口のゲートへと促す。
ジョイポリス攻略の鉄則を復習だ。まずは『混雑は天候に左右されない』という仕様を理解すること。次に『列離脱は全滅(並び直し)』を意味する鉄の掟。そして何より、待ち時間を『ジョイポリ探検隊』やデバイスでクエスト化するプレイヤースキル……。これさえあれば、どんな長いロード時間も、最高のバフ時間(思い出)に変わるんだ。そうだろ?
リエルはゲートをくぐる直前、一度だけ、青く光る館内を振り返った。
……また、この地の結界が乱れたならば、調査に来てやらんこともない。その時は、汝らも同行を許してつかわす. これは命(めい)なり、拒否は許さぬぞ……?
ひゃあぁっ、また来るんですかぁ……!? 今度は、もっと高カロリーな備蓄(おやつ)を鞄に隠して……あ、いえ、再入場して外で食べる計画を立てますぅー!
乃々日による最終鑑定
あぅ……やっと栄養(ごはん)が食べられますぅ……でも、リエルさんが楽しそうだったので、わたしもなんだか……ちょっとだけ、楽しくなってきましたぁ……
- 暇潰し相性:★★★★☆
- 周囲への配慮:★★★☆☆
- 実用性: ★★★★★
ジョイポリ探検隊との並行攻略は、栄養分(時間)の吸収効率がとっても高いですぅ……! でも、歩きすぎて低血糖にならないように、並ぶ前に少しだけ、何かをお腹に入れておいた方がいいかもしれませんねぇ……あ、もちろん指定の場所で、ですよぅ……!